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東北のいまvol.13「育った景色を次世代につなぐ、クロマツの苗が春を待つ。」公益財団法人オイスカ 海岸林再生プロジェクト名取事務所
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宮城県仙台市の南に位置する名取市。昔から、太平洋を望む海沿いには400年以上の歴史を持つクロマツの海岸林が並び、名取平野の地域住民や農家を波や潮風から守ってきた。長さ約5キロメートル、海岸線から約500メートル……約130ヘクタールあった海岸林は、126ヘクタールが津波で被害を受け、今は、点在するように残っているだけだ。
「生まれ育った元の景色に戻したい」。それには1ヘクタールあたり5000本のクロマツが必要。公益財団法人オイスカの海岸林再生プロジェクトは、この名取市の海岸林を10年かけ50万本、100ヘクタールにわたる植林を目指している。
植林はクロマツの苗作りから行われる。初年度にあたる2012年4月に、幅1メートル3列の畑を作り、種を植えた。苗作りの専門家が「萌芽が20〜30%いったら良い方」と言うほどに難しい苗作りに、農家を始め賛同してくれたおよそ30人で取り組んだ。土壌調査をし、必要な成分を含んだ床づくりをした。予定日を過ぎても芽が出ず「失敗したか」とも思ったが、5月1日に芽が出た。驚いたことに97%が萌芽するという成功率の高さだった。そして、今は9万本が13〜15センチにまで成長。「掲げた目標は50万本。でも、本当は120ヘクタール分の60万本を植えたいんですけどね」とプロジェクト統括の佐々木康一さんは話す。
海岸林の育成・植林は、種苗法という法律を遵守する。素人目には、スギはスギ、マツはマツとひとくくりにしてしまうが、実際はそれぞれ多様な種があり、本来ある生態系の姿を保つため一定のルールが設けられている。また、海岸植樹した際、できる限りの成功率を高める「適所適木」の考えもあるという。もちろん、植えただけでは終わらない。今回は「10年プロジェクト」。その後も枝打ちなどの手入れは続く。
「マツの苗がもう、めんこくって」とメンバーの大友英雄(おおともひでお)さん(63歳)は話す。昔からチンゲン菜や小松菜、仙台雪菜などの葉物を育てる農家を営んできたが、マツを育てるのは今回が初めてだ。
「松林は、自分たちが子供の頃から当たり前のようにそこにあり、生活の一部だった」と桜井重夫さん(62歳)、森幸一さん(69歳)は話す。小学生の頃は、松林に入って、松の実を食べ、ストーブの火をつけるために松ぼっくりを拾って帰った。3人は、そんな思い出のある松林の景色を取り戻したいという思いと、次世代の生活のためにも再び海岸林を残したいという思いから今回のプロジェクトに参加した。成林するまでに20年以上。「そこまで面倒見てられっかな」と3人は笑った。「次の世代に引き継いでいかないとですね」と佐々木さんは話す。
苗は昨年の11月からは冬眠期間。虫がつくこともないので、格別な世話することもない。春を迎えた4月から隣の畑に広く植え直す。海岸沿いに移植するために、もう1年かけて25〜40センチの高さに育てるためだ。冬入りする前は柔らかかった針葉が、雪の下で固く引き締められている。
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『東北復興新聞』で連載している「東北のいま」のvol.13で宮城県名取市の公益財団法人オイスカ「海岸林再生プロジェクト名取事務所」を取材させていただいた時の写真&文章です。
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