東北のいまvol.2 「ありがとう」の大合奏LIVE

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2月5日。空は青々としていて、高く抜けている快晴。前日に降った雪が道路脇に残っているけれど、陽射しが温かい。すれ違う学生たちは、「おはようございます」と笑顔で気持ちよく投げかけてくれ、こちらも自然と言葉がもれる。

この日、石巻市内にある高等学校の体育館に、小中高生500人が集った。石巻、女川、東松島の子どもたち。支援してくれた日本全国・世界各国の人たちに向けて「ありがとう」を歌う。


被災直後の支援では、生命に関わること――食べ物や住む場所の確保などが優先される。当然、音楽は二の次にされたもののひとつ。でも、「だからこそ、子どもたちがもう一度音楽を奏でたいと思ったときに、手をさしのべられるように」と自身・音楽家の曽根哲夫さんは全国の有志から楽器を集める絆プロジェクトを震災後に立ち上げた。
絆プロジェクトがこの日の「ありがとう」を企画したのは「子どもたちが気持ちを出せる場を作りたかった」から。もう一つは、楽器を送るなどで支援してくれた人たちへ感謝を伝えるには「子どもたち自身が奏でる音楽を届けること」だと思ったから。

会場には大型の照明やクレーン、ビデオカメラなどの撮影機材が入っていた。この日の合奏をUstreamやニコニコ動画でライブ放送するためだ。曲は、Mr.Children「かぞえうた」、唱歌「故郷(ふるさと)」、いきものがかり「ありがとう」の3曲。
学校単位で練習してきたものの、500人が合わせるのはこの日が初めて。石巻地区の吹奏楽祭の昼の時間を使うということもあり、数回のリハーサルでオンエアの時間を迎えた。生徒たちの顔に緊張が見える……。

指揮者の合図で、クラリネット、フルート、ホルン、ユーフォニウムが柔らかい音を奏で始め、それにトランペットとトロンボーンの力強さが加わると合唱が始まった。
合わせる時間があまりなかったことも、緊張のせいもあると思う。リハーサルの時よりも声が少し小さくて、隣の人の声を遠慮がちに探っているようにも聞こえた。でも、それが曲が進むにつれて声が少しずつ合わさっていくのが、声が出始めてきているのがわかる。1曲目が終わり、2曲目が終わり、そして、最後の「ありがとう」では一人一人の声に自信のような、誇らしいような気持ちが乗り、調和する。表情は一人一人もちろん違う。でも、3曲の15分で、少しこわばっていた顔が、今ここで歌っていることを実感しているような顔に変わっていた。

この合奏のライブ配信の閲覧者は1万人を越えた。今回の合唱についてある中学の先生が「子どもたちの表情を見ましたか? これがいま私たちが支援してくれた方々に伝えられることです」と誇らしげに笑った。

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東北復興新聞』で連載している「東北のいま」のvol.2で取材させていただいた時の写真&文章です。

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